激戦の末、教経は無事だった。
「敦盛は…?」
教経は敦盛を探すが、どこにもいない。
「っく…やられたのか、源氏に…」
重衡も捕虜になってしまった。敦盛も殺されたか、捕虜になったかー。
教経の悔しさは並ではなかった。
だが、その教経の予想は外れていた。
敦盛は、一ノ谷に来ていた、とある人物の元にいた。
「ん…ここは…?」
敦盛が気がつくと、衣が鎧ではなく、女装束になっていた。
「…っえ、何で!?」
「気が付きましたか?」
「お前は…さっきの!」
「…はい、那須与一と申します」
敦盛は思い出した。確か、戦場にいた時、後ろを取られて気絶してー。
「何なんだこの格好は!私は女ではない!」
「くす…貴方が綺麗だから、と言うのは冗談で、女子の扮装をさせて連れてくれば問題ないかな、と思ったもので」
「…悪趣味にもほどがある!大体、何故私を助けた?このような事をされるのだったら、殺された方がましだ!」
「…まぁそう言わないでください、貴方は女として私の妾になるんですから」
「……はぁ!?」
与一は笑っている。
それから半月。
「よーいちっ、」
「敦ですか、どうしました?」
「また、与一の弓さばき見せてよぉ!」
「…困った人ですね、そう鳥ばかり落としたら、鳥が可哀相じゃないですか」
「うーん…じゃあ庭で笛を吹いてるね」
「…はい」
与一は気付かなかった。この笛が、敦盛を悲運に導いていくということを。
「教経様、どうやら源氏の那須与一というものの住まいから、敦盛様のような笛の音を奏でる人がいるそうです」
「…敦盛、生きていたか」
「…は」
「死んだと思って早一月、ずっと探してきた甲斐があったな…源氏など恐れぬ、出立だ」
「与一、外が騒がしいよ」
「なんでしょうね…貴方は中にいてください」
「私が見てくるよ」
「…敦盛っ!待ちなさいっ」
「…やはり、敦盛だったか」
「……教経兄様…何故ここに」
「お前の笛の音でわかった…帰るぞ」
「いや…!私は与一と…」
「駄目だ」
「…与一ーっ!!」
与一は、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
「与一!!助けてー!与一ー!」
「…私は、どうすればいいのか、わかりません、敦盛」
誰もいなくなった場所で一人呟いた。
「合戦…」
敦盛は、鎧を着ながら考えた。
「…明日は、合戦…また皆が死ぬんだ…」
「だが臆すことはない、まだ平家側が有利だ」
「兄様、私は」
「大変です!源氏が攻めてきました!」
「もう来たか…いくぞ、敦盛」
「うん…」
「く…味方は半分やられたか、くそ」
「兄様、私は雑魚を片してきます」
「…気をつけろよ」
敦盛は走った。もしも、もし与一がこの戦場に来ているのならー。
「…敦盛」
「与一…」
二人はお互いの出会いを懐かしむ暇などなかった。
「…敵になっちゃったね」
「…そうですね」
「…二人で、三途の川に駆け落ちしよっか」
「構いませんよ…」
お互いの首を狙って弓を構えた
。だが、敦盛は与一を伐たなかった。与一の矢は敦盛に刺さり、敦盛は倒れた。
「…ど、どうして伐たなかったんですか!」
「…いいんだ…与一にはまた…生きて…ほしいの」
「…貴方というひとは…優しすぎですよ」
与一は、最期の最期に、敦盛を抱いた。もう涙など堪えられずに。
「与一…ありがとう…最期に会えて良かった」
「…私もです」
合戦の結果、平家は負けた。
敦盛は助からず、供養された。
だけど、与一の心の中では、今日も桜の木の下、敦盛が笛を吹いている。
何がいいのかなど、誰にも分からない。
ましてや、どれが一番いいのかなどー。
ただ分かる。敦盛といたあの時代は、嘘ではなかった。今も、この胸の中で−−。
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ま、また死にネタ・・;;
悲しいですよぉ〜、こんの悪趣味は(汗
いちおう、感動してもらえたらな〜、みたいな感じです。